純情エゴイスト
□心と体
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世界で一番の幸せ…
それは・・・隣にあなたがいて
いつも通りの日常があること
金・土・日曜日と三連休となる今週は、日曜日にクリスマスを控えているせいか学生も教師もそわそわと落ち着かない。
クリスマスを野分と一緒に過ごす事をすでに諦めている弘樹にとっては関係のないことだが…。
いつも通りに講義を行い、夕方は前倒しのような形で仕事を進める。
論文も提出する分はすでに片付け、そして次の論文の資料集めまで終わらせている。
おかげでこの先二ヶ月くらいは急な仕事が入らない限り楽ができる。
そうして仕事を進めていれば週末も早いもので、祝日の金曜日になっていた。
弘樹は午前中から図書館に行き本を読んでいた。
もしかしたら野分から連絡がくるかもしれないと淡い期待を込めて携帯を手元に置くが、夕方になっても鳴らない携帯に弘樹は重いため息を吐き出す。
閉館時間より少し早めに図書館を出た弘樹は気の向くままに街を歩いた。
そうして、たまたま入った路地に洒落たバーを見つけたのだ。
中に入ると、雰囲気も内装も弘樹の好みに合っていた。
カウンターに腰掛けた弘樹は、ほろ酔い程度なら…と酒を飲み始めた。
最初はチビチビと飲んでいた弘樹だが、マスターオススメのカクテルが気に入りペースが上がる。
「くそ〜〜〜のわきのばぁか、連絡も、よこさないで・・」
弘樹はカウンターの端でひとりできあがっていた。
祝日のためか、客がまばらにしかいない。
暖房の入っている店内は酒がまわりきっている弘樹には少し熱く、胸元のネクタイはすでに緩められていた。
そこに、カラン…と扉の開く音、そして共に入ってくる外の冷たい風。
その涼しい風にうなだれていた弘樹は顔を上げ、誘われるように振り返る。
弘樹の目に映る、長身で黒髪の男。
男は真っ直ぐに弘樹に向かってくる。
弘樹は近付いてくる男から視線を外さずに、ただジっと見つめる。
「美人さんがひとりで寂しくないかい?なんなら…」
男が弘樹の隣の席に座り話しかけてくるが、弘樹は男の話など耳に入っていないようで座った男に擦り寄り一言。
「のわきぃ…」
唖然とする男をそのままに縋り付く。
「え、ちょっと…おいっ」
男が呼びかけるも弘樹は酔い潰れて眠っていた。
その顔はとても安心していて、だが…どこか寂しげだった。
男はそんな弘樹の頬を撫でながら呟く。
「全く、無防備にも程があるだろ。それにしても『ノワキ』って誰と間違えてんだか。」
男が弘樹を見る目は狂気の色を宿していた。
「さて、捕まえたぞ。上條弘樹。」
ククク…と押し殺したように笑う男の顔は、無防備な子供のようだが、そこには確かに残忍さが含まれていた。
カラン…と鳴る扉の音と入ってくる外の冷たい風、バーに弘樹の姿は無かった。